第1章 入院に先立ってのこと
回復期リハビリテーション病棟の「回復期」って?
病気や怪我の種類は違っていても、自然回復や集中的なリハビリテーションにより身体の機能や日常生活動作(ADL)の改善が見込まれる時期を「回復期」という言葉で表しています。脳卒中や大腿骨頚部骨折など大きな病気や怪我を発症すると、急性期病院で治療を受けて命の危機を脱し、全身状態はひとまず安定します。しかし、まだまだ麻痺などの障害が残っている場合が少なくありません。こうした症状はすぐには固定せず、その後引き続き機能や日常生活動作(ADL)などの回復が期待できる期間が続きます。この期間は病気の種類や発症した場所、発症してからの期間などに左右されるため、回復期リハビリテーション病棟では入院できる患者さんの病名、発症してからの期間が決められています。
以前は発症から60日以上経つと入院できませんでしたが、2020年4月からは発症からの期間の長短によらず、回復期リハビリテーションを集中的に行うことによりADLの一定の改善が見込まれると医師が判断した方は60日を超えていても入院・治療いただけることになりました。
第2章 入院中のこと
●回復期リハビリテーション病棟での毎日の生活はどんな感じですか?
毎日の生活は、まず患者さんの病気の管理が基本となります。そのうえで、通常、数か月間の入院を経て家庭や社会へ復帰することを目的に、日常的な食事や歩行、排泄、入浴などの動作を改善するためのリハビリ・プログラム(総合実施計画)が医師の指示のもと、療法士や看護師などのほか多くの専門職チームによる検討の上、組まれます。
「回復期リハ病棟のケア10項目宣言」
「食事は食堂やデイルームに誘導し、口から食べていただく取り組みを推進しよう、排泄はトイレへ誘導し、オムツは極力使用しないようにしよう、日中は普段着で過ごし、更衣は朝夕実施しよう」などの宣言は、たとえ障害があったとしても、患者さん自身の希望する生活を実現できるよう支えていきたいという看護・介護スタッフの声から生まれました。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)による入院中の毎日の個別集中的なリハビリテーションと並行して看護・介護スタッフによる患者さんの主体性をあと押しする支援が重ねられます。
●回復期リハビリテーション病棟ではなぜチーム医療が行われているのですか?
患者さんにとって、「回復期」は集中的なリハビリテーションによって機能回復が最も期待できる時期であると同時に、心理、社会、経済的問題も多々生じやすい時期といえます。生命の危機を乗り越えひとまず安心したものの、「手足の麻痺は元に戻るだろうか」といった不安や、「仕事に復帰できるのか」「麻痺が戻らなかったらこれから先どうしたらいいのか」等の不安がいっぱいあります。
こうした複雑な心身状況に置かれている患者さんや家族に対し、良質な入院医療サービスを提供するためには担当医師だけの力では不十分です。大勢の看護・介護スタッフ、セラピスト(PT・OT・ST)、ソーシャルワーカー(社会福祉士)、管理栄養士、歯科医師・衛生士、義肢装具士、薬剤師…さまざまな専門技術・知識を持った医療スタッフがチームを組み、患者さん、家族を前向きな気持ちにさせ、一緒にADL向上、自宅等への復帰に取り組むことが必要です。
●回復期リハビリテーション病棟にはどれぐらいの期間、入院できますか?
入院できる期間は、疾患や傷病名によって日数が決められています。たとえば、脳梗塞や脳出血などは150日以内、高次脳機能障害(脳がダメージを受け、記憶・思考・言語などの機能が低下した状態)や脳卒中の重症例は180日以内、大腿骨頚部骨折、廃用症候群は90日以内、股関節・膝関節などの神経、筋や靭帯の損傷は60日以内となっています。実際には患者さんの状態やご希望、また退院先の状況によりそれぞれ異なりますから入院された病院の主治医やスタッフと相談しながら決めていくのが一般的です。
退院についてはソーシャルワーカーをはじめいろいろな職種のスタッフが患者さんに寄り添い、ご本人の希望を聞き、自宅に帰ってからの患者さんの生活を第一に考えながら最良の退院方法を考えていきます。
第3章 退院のこと
退院先や退院の時期を誰がいつ決めるのですか?
回復期リハビリテーション病棟に必要とされる入院期間や退院のための環境調整については、主治医を中心としたスタッフと相談しながら決めていくのが一般的です。多くの回復期リハビリテーション病棟では関係専門職が各種「カンファレンス」と呼ばれる担当者間の協議の場を定期的に開催し、多数の専門職の意見をもとに患者さんの回復状況を確認し、退院、その後の地域生活を見通した訓練実施プログラムを作成・実施しています。